「のいろん」 なかつ神経内科クリニック院内紙

のいろん (第2号)(1996年12月01日号)より転載
(「のいろん」:大阪回生病院神経内科通信として小生が執筆していた小冊子)

のいろん (第2号)(1996年12月01日号)
神経内科のうんちく   第2回

「神経内科とは、どういう科なの?」

 神経内科というのは、最近ようやく皆さんの耳になじんできた言葉だと思います。日本、特に、大阪地区でこそ耳新しく聞こえる科ですが、欧米ではすでに100年を超える歴史があります。日本では、独立の専門分野となるのが遅れましたが、東京大学、鳥取大学、九州大学の3大学医学部に、日本で初めて脳研究施設・脳神経内科が開設されて、約30年になろうとしています。しかし、神経内科は疾患の種類は多いものの、患者数の比較的少ない治療困難な難病を扱うことが多く、地味な科のため、マスコミに登場することも少なく、他科に比べ、知名度が低いのが現状でしょう。今でも、神経内科はどういう病気を診る科なのかもうひとつわからない方もおられるかと思います。また、脳神経外科、精神(神経)科、心療内科とどう違うかわからない方もおられるかもしれませんね。
神経内科は、「病理変化のある疾患を内科的方法で診断治療」していく科である。といっても、わかりにくいかもしれませんので、混同されやすい、脳神経外科、精神(神経)科、心療内科との違いを簡単に述べてみます。脳神経外科は、頭部に外傷を受けることで生じた頭蓋内に血腫(血のかたまり)を手術して取り除いたり、クモ膜下出血の最多の原因である脳動脈瘤(脳の中の血管の一部が膨れて、風船状になったもの)を処置したり、脳腫瘍を対象とする専門の外科医です。また、うつ病や神経症(ノイローゼ)は、一般の方々には、「神経の病気」として広く知られていますが、このような脳神経の働きである「心(こころ)」の病気には、精神(神経)科が専門に診断、治療にあたります。心療内科は、精神の疾患やストレスなどの心因(「心(こころ)」が原因となるということ)から、身体症状(胃潰瘍、心臓神経症、頭痛、自律神経失調症など)を来した場合に、内科的な面だけでなく、心因面を中心に診断、治療を進めていく専門領域です。神経内科は、「神経の病気」といっても、「手足が麻痺して動かない」、「足の力はあるのに体のバランスがとれないので歩けない」、「手足の感覚がなくなった」、「口がもつれる」、「脳卒中で片側の手足が動かない」、「筋肉が萎縮して手足が細くなる」、「パーキンソン病で手がふるえる」など、症状に具体性を持った運動、知覚、筋肉の異常で困っている患者さんたちを担当する科なのです。
 神経の病気というと、一般内科の診察と違って、いろいろな部分の動きとか知覚とかを診察しなければならず、一般内科よりも、かなり長時間かかります。特に、初診の場合は大変時間がかかります。神経内科診察では、例えば、「運動ができない」からといっても、診察を受けに来た人に手足を動かしてもらうだけでは診察にはなりません。知覚との関係、バランスを取る機能との関係といった点を十分に調べて、病気の起こったところが、中枢神経なのか、末梢神経なのか。中枢であれば、大脳なのか、小脳か脳幹か脊髄かという点まで考えなければ、正しい診断をつけることができません。その点では、聴診器が主役を務める一般内科とは違います。
 そういう訳で、初診の患者さんの次の患者さんは、「次は自分の順番のはずなのに、全然、呼ばれない。」「後から来た、他の一般内科の患者さんは次々呼ばれていくのにおかしいなあ。」「先生、私のこと忘れてんのんのと違う?」と、思うほどかもしれません。特に、本院の神経内科のように、1人体制・1診のみで急患も初診も再来もごちゃ混ぜに一緒に診察しなければならないところではより一層そういった事態が起こりやすいのが現状です。急患で入院必要ともなると、病棟処置も加わり、その次の順番の方は、お気の毒なほど待っていただかねばならなくなります。でも、あなたのことを決して忘れてはいませんので、ご安心下さい。
 ところで、神経細胞は一度破壊されると、二度と再生しないといったように、神経は他の臓器に比べ、はるかに再生力が劣っています。このことが、治りにくいといった神経疾患の特徴を出す原因ともなっています。それでも、神経の病気というと、とかく治らないと思われがちだったのが、最近は結構、治療法が出来てきています。たとえば、昨今、京都大学医学部収賄(?)事件でマスコミを賑わしているボツリヌストキシンでは、ジストニアという不随意運動で食事もとれず、歩行もできない人が、この薬のお陰で日常生活が行えるようになっています。また、「レナードの朝」という映画をご覧になったことがあるでしょうか。映画で出てくるパーキンソン症候群(映画では、エコノモ脳炎(嗜眠性脳炎)後遺症による)におけるレボ・ドパという薬によって、約20年間の眠り(本当は、錐体外路症状で全く動けなかっただけ)より劇的に目覚めた感動的な効果とかがあります。パーキンソン病では、このレボ・ドパをはじめとする抗パーキンソン病治療薬開発のお陰で、かつて無治療では生命予後2年と言われたものが、平均寿命近くまで生きられるようになり、なおかつ、人間らしい日常生活も可能となったのです。このように、原因そのもの消失させる治療ではないにしても、対症療法や補充療法でも、実用的な治療が可能となってきました。治療により、病気がなくならないにしても、病気と共存しつつ、病気発症前の状態に近い生活が出来ることを目標となっているのです。神経内科では、しばしば、生命予後(生きてるか、死ぬかということ)よりも、機能予後(治療した後、どれぐらい機能が回復して、どのくらい快適な人間らしい生活が送れるかということ)を問題にするのはこのためです。